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心は泣いていても、 涙はみせない。 というか、見せたくない。 せっかくの覚悟がぶれるから。 これは私の、ただの意地。 16.嵐のまえぶれ 前 カカシさんがいない夜はよくあっても、ムサシくんもいない1人ぼっちの夜は本当に久しぶりだった。 だからって訳ではないけれど、部屋に誰の存在もないこんな静かな夜はいろんな事を考えるのにとても向いている。 1人になってから思うのはこちらの世界に来てからのこと。 見知らぬ世界、初めて出会う人。 その一つひとつに、驚き感動し悲しみ泣いたこともあった。 しかし、どの思い出をとってみても自分は楽しんでよく笑っていたと思う。 だけど の思考が止まるのは、カカシの傷ついた表情で終わったままのあの日。 カカシさんとは言い合いをしてそのまま彼が任務に向かってから、ずっと会ってない。 どんな謝罪の言葉も、 弁解の言葉たちも。 顔をみて、話が出来ない今。 それらは自分の喉の奥の方へとずっとしまわれたままになっていた。 「カカシさん、はやく帰ってこないかな。」 は彼が出ていった窓に手をつき、夏の終わりを悲しむようなパラパラとした小雨がふる空を ぼんやりとどこを見るでもなく眺めていた。 カカシさんに、逢いたい。 唯一、は後悔していた。 どうしてあの時自分はちゃんと笑顔で見送ってやれなかったのだろう、と。 どうしてきちんと自分はこの家で、あなたが帰ってくるのを待っていると言ってあげられなかったのだろう。 どれだけそれまでのカカシとのやりとりが激しかろうと。 動揺していようがいまいが、 命をかけに行く彼に次はないかもしれないのに。 よくない考えを浮かべてしまい、は慌てて首をふる。 もう、迷わない。 もうこんな後悔二度としませんから。 どうか無事に彼を帰してください。 せめて、おかえりなさいは笑って言いたいんです。 の心はカカシただ1人が、その全てを埋め尽くしていたにも関わらず。 願いは、カカシのもとへと届く前に雨と共に大地へ流れていってしまった。 それからさらに数日経ったある昼下がり。 は己1人の生活を完全にもてあましながらも、家でカカシの帰りを待っていた。 そんな彼女の元に現れたのは、待ちわびていた人ではなく。 「さん、いますか?開けてください。」 チャイムではなく、焦りを含んだ声と共に荒っぽく叩かれるドア。 何事かと、は急いで玄関の扉を開いた。 「イルカさん?」 「さん、説明は向かいながらします。今すぐオレに付いてきてもらえませんか?」 「え?あの、・・・。」 冷静を装いながらも、動揺を隠しきれないイルカの様子にはひどく困惑した。 そんなにイルカは思い直し、一呼吸おいて。 「・・・・カカシさんが、意識不明の状態で任務から戻ってきました。今は・・・木の葉病院にいます。」 は時とともに自分の心臓が止まったのではないかと思った。 それほどまでに、今耳に入ってきた言葉が 現実が 信じられなくて。 呼吸を忘れているの肩を掴み、イルカは目線をしっかりと合わせた。 「さん・・・さん!」 「あ、・・・ハッ、・・・はい。」 イルカの声で、ようやくは詰めていた息を吐き出し再び空気を肺に入れた。 「火影様に言われてあなたを迎えに来たんです。病院に、行きますね?」 一瞬、は躊躇った。 意識のない彼に会う。 そんな姿は望んでいたものではないのに。 目の当たりにして現実を受け止めたくない、けど・・・。 「連れてってください、カカシさんの元へ。」 次の瞬間にはは真っ直ぐにイルカの瞳を見つめ力強くそう口にしていた。 しっかりしなくちゃ。 そんな弱気でどうするの。 決めたじゃない、ちゃんと笑顔でおかえりなさいって。 次にカカシさんに会う時は、そう言うの。 大丈夫、きっと大丈夫。 すぐに出かける支度をしてイルカに抱えられながら、病院へと向かった。 「ここです。」 目の前の一枚の扉。 この先に、ずっと逢いたかったカカシさんがいる。 「さん?」 「大丈夫です。」 震える手をドアノブにかけ、は静かに扉を横に引いた。 駆け出したい気持ちを抑えつけて。 ゆっくりとベッドへと歩みよったの視界に入ったもの。 「あ、・・・カカシ・・・さん。」 何もかもが真っ白な上に、静かに瞳を閉じて横たわるカカシには自分の頭の中までもが真っ白くなっていった。 そんなの心を支えるように、隣からイルカがの肩にそっと手をのせる。 「ただ、・・普通に眠っているだけに見えますね。」 ようやく口にした言葉がなんの意味も持たないような気がしながらも、イルカさんはただ受け入れてくれた。 「そうですね、外傷はほとんどないそうですから。ただ、その・・・」 それからイルカさんは、忍の知識がまるでない私にもわかるように丁寧にカカシさんの状態を説明してくれた。 傷ついた仲間たちを守りながらの戦いで、不意に相手の幻術を受けたため精神的なダメージが大きいのだという。 不幸中の幸いか、仲間達は皆怪我こそ酷いが、命に別状はないそうだ。 「いつ、・・・目覚めるかわからないそうです。」 一般人で精神訓練も受けたことがない、ましてや異世界からきた彼女にこの事実を伝えるのは残酷だとも思った。 「そうですか。」 しかしはグッと手のひらを握りしめ、イルカを見た。 「入院中のお世話は私にさせていただけるんでしょうか?」 「火影様からはさんのしたいようにさせてやれと、仰せつかってますので。」 「ありがとうございます。」 それからはワンルームマンションのように調った設備を一通り見渡し、 カカシの着替えなど簡単な身の回りの物をとりにイルカに一度家まで送ってもらった。 「本当に大丈夫ですか?」 「はい!道も覚えましたし、荷物もそんなにありませんから。私なら大丈夫ですよ〜。」 再び病院まで一緒に行くと言ったイルカの申し出を、は頑なに拒んだ。 俺が心配なのはそっちじゃないんだけどな。 てっきりその場で泣き崩れるもんだと思ったのに。 というか、自分はそうして欲しいとさえ願っていた。 ベッドに横たわるカカシを見ても、は少しの動揺を見せただけでそれからは普段の様子を必死に装っていた。 泣いて、おおっぴらに取り乱したほうがよっぽど健全だ。 一生懸命平然を装う彼女が逆に痛々しかった。 でも きっとそんなさんの心に寄り添えるのは、俺ではないから。 イルカはその日は諦めての元を去った。 再び病院に戻ったは、傍らで椅子に座り静かに起きないカカシを見つめている。 「・・・カカシさん。」 静かに眠るカカシは、いつぞやに見た寝顔とちっとも変わらないのに。 今は、 今はどれだけ名を呼んでもその瞼をあけてはくれない。 「起きて。・・・おきて、くださいよ。」 少しも反応しないカカシの手を、そっと握れば。 感じるあたたかさだけが、今のの心を支えていた。 それからのの生活は、病室と家を往復する毎日となった。 「カカシさん、今日はすごくいい天気ですよー。」 は病室のカーテンを全てあけ、太陽の光で部屋をいっぱいにした。 カカシの身体に関わることは、担当の医師と看護師が行っていたのでに出来ることなどほんのわずかに限られていた。 朝やってくるとこうしてカーテンをあけたり話しかけたり、来る途中に買ってきた花をいけたり。 あとの時間は、ベッドのそばに腰かけ小説を読みながら過ごした。 そうして、面会時間が終われば家へと戻り必要な家事をこなす。 カカシがいつ目覚めるかわからない以上、例え自分に出来ることがほとんどなくとも少しもそばを離れたくないと思った。 家に1人でいると、よくない考えがずっと離れないというのも少なからずある。 その日はカカシが病院に運ばれてから初めてお見舞いの客が訪れてきた。 コンコン、と控えめなノックの後に見えたのは金髪。 「ナルトくん?」 「ねーちゃん、久しぶりってばよ。」 その後から、サクラちゃんとサスケくんもあいさつをして入ってきた。 「サクラちゃんにサスケくんも、こんにちは。」 お見舞いに来た子どもたち3人に、思わずの顔も綻ぶ。 すると、最後に見知らぬ男性が 1人。 「よォ、お前が話しに聞くか。」 はその風貌と一体、誰にどんな話を聞いたのだろうかということで思わず身を固くする。 「アスマ先生、ねーちゃんが怖がってるってばよ。」 「あ?しゃーねーだろ、そーいう顔なんだからよ。別にこっちは凄んでる訳でもなんでもねぇよ。」 「あ、あの・・・。」 「さん、私達の臨時の先生なの。」 みかねたサクラが口を挟んだ。 「臨時・・・?」 「猿飛アスマだ。カカシがこんなだからな、同僚のよしみで俺が臨時でこいつらの面倒みる事になってよ。」 その言葉にその場にいた全員が目覚めないカカシを見る。 「そうですか、・・・・私のことはどこまで?」 再びは視線をアスマと名乗った男へ向け、そう問いかけた。 「まぁ、だいたいはこいつから聞いてる。」 事実を知らないサクラとサスケの手前、詳しくを確かめることは出来ないが きっと異世界から来たという事も知らされているのだろうということがその瞳からうかがい知れる。 「そうですか、名前・・・はご存知ですもんね。はじめまして、よろしくお願いします。」 「あぁ。」 火影の命により、カカシから聞かされていた詳細をアスマは思い出していたが どれも今目の前にいる女性には当てはまらない気がした。 『はオレたち忍とは正反対だよ。自分の気持ちに真っ直ぐで、よく泣くけど ・・・そのかわり泣いた後には花が咲いたみたいにキレイに笑うんだ。 んで、天然なトコにオレもイルカ先生もゲンマも振り回されっぱなしってワケ。』 以前、待機所でカカシはそんなことを言っていた。 先ほどの視線だけで悟る様子からは、天然っぷりなど想像もつかない。 あとはまぁ、こんな状況じゃあな。 いくら感情豊かとはいえ、カカシがこのような状態である。 ただ、・・・抑えすぎな気もするが。 「カカシ先生、今にも起きそうだってばよ。」 「うん、アタシもそう思うよ。」 愛おしそうに見つめるの視線に、 アスマはその想いを瞬時に読み取った。 ・・・・さっさと起きてやれよ、カカシ。 「お前ら、そろそろ行くぞ。」 「えーもう行くのかってばよ。」 「しょうがないでしょう、ナルト。無理言ってアスマ先生に連れてきてもらったんだから。」 「さっさと戻ってアイツらと修行だ、のろのろしている暇はない。」 「・・・ねーちゃん?」 名残惜しそうなナルトくんが、私の手をとる。 「ん?修行、頑張ってね。」 は空いている方の手をナルトの頭に乗せた。 「大丈夫。カカシ先生ならすぐに起きるってばよ!」 ナルトくんは、元気いっぱいにそう言ってくれた。 そんな彼にサクラちゃんがお決まりのげんこつを1つ。 「イテッ!!」 「ナルト!静かにって言われたでしょ。・・・さん、カカシ先生遅刻魔だから待たされるの大変でしょうけど。 きっとすぐに起きますよ、いや〜ちょっと夢の中で道に迷ってなぁなんて言うに決まってるわ。」 「フン、カカシが目覚めなくとも俺たちがお前を護ってやる。」 サスケの珍しい発言に、一同は驚きつつも。 「3人とも、ありがとう。カカシさんが頑張ってるんだもの、私がへこたれる訳にはいかない。大丈夫よ。」 はあくまでも気丈に振る舞い、弱さなど素振りも見せずに柔らかく笑った。 「お前ら、先にシカマルたちのところに戻ってろ。」 アスマにそう言われ、ナルト・・サクラ・サスケの3人は病室を後にした。 「あの、なにか?」 「なにか不都合なことがあったらいつでも言えよ。」 「え?」 ただの監視役にすぎないと言ったカカシが、必死に護る存在。 アスマは先ほどのやりとりで、その理由に少しだけ触れた気がした。 「異世界から来たんだ、ただでさえ大変なのにその上頼ってた同居人がこれじゃあな。お前も色々と困るだろーからよ。」 初めは少し怖いと思ったけど。 とんでもない、ナルトくんたちの臨時の先生でカカシさんの同僚であるアスマさんは優しくてあったかい人だった。 「木の葉の忍の方はみんなあったかいです。」 はポツリと、思わずそう口にしていた。 「あーまぁ、他の奴らがどーだかは知らねェが。俺は後でカカシにうんと請求するつもりでいるからな。」 顎の髭に触れながらアスマさんはニヤ、とわずかに口の端をあげた。 「そういうことでしたら、うんとアスマさんにお世話になっておきましょうか。」 アスマの冗談に乗っかって、も意地悪く笑いながらそう言った。 「お、言うな。」 クスクスと笑うに、見た目通り豪快に笑うアスマ。 間には対象的に静かに眠るカカシがいる。 「まぁ、そういうことだ。あんま根つめすぎんなよ。次、お前が倒れたら俺らがカカシに殺される。」 「はい、ありがとうございます。」 現れた時よりずいぶんと距離を縮めて。 アスマさんはまた来る、と言って病室を去って行った。 再び静けさを取り戻す部屋。 「アスマさんて、いい方ですねカカシさん。」 返事はないとわかってはいながらも それでも、は話かけることをやめずにいた。 そうすれば、そのうちのんきに よーく、寝たvなどと言って目を覚ますのではないかと。 それだけを願って。 「よ、。」 面会時間をすぎた後、夕飯の買い物をすませ家に向かう道すがらはその人に出会った。 「あ、・・・ゲンマさん。」 「買い物帰りか?」 相変わらず、長楊枝をくわえてこの間あったことなど気にもしない様子でいる。 「お前、少し痩せたんじゃねーの。」 あくまでもなんでもないようなからかうような口調が、今のの心を軽くする。 「ゲンマさん、それセクハラですよ。」 「そんなの、お前のとりかた次第だ。」 これもまた相変わらずの軽口に、はケラケラと笑った。 家まで送っていく、というゲンマさんの申し出をは受け入れて。 荷物を持ってもらいながら短い道のりを2人並んで歩いた。 「まぁ、お前も大変だな。」 「あー・・・そうでもないですよ?」 カカシさんのことを言っているのだろうと思いそう軽く言い返せば、 ゲンマさんも冗談で返してくれるもんだと思っていたのに。 「バーカ。」 「え?あの、ゲンマさん?」 ゲンマさんは、その場に立ち止まって珍しく眉間に皺を寄せていた。 今までと違う雰囲気に、はただただ戸惑うばかりで。 「ハァ〜。ったく、。お前ってやつは・・・。」 そのあとの言葉は、には聞き取れなかった。 ただ、カカシさんがあんな状態なのになんにも出来ない自分がしょうもないと そう言われたわけでもないのに、勝手に自分で決め付けて。 言い返す言葉の代わりに、うつむいて唇をかみしめた。 「だぁ!んな顔すんじゃねェ!!ちげーよバカ。」 そう言ってゲンマさんは、私の頭をぐしゃぐしゃとなでた。 訳が分からなかったがそのままにされているのもなんだか癪のような気もして、 私はその時の精一杯でゲンマさんに言い返した。 「さっきから、バカバカって。・・・っていうか、私は元々こんな顔なんですー!」 「違うな。」 「は?」 止まった手に、うつむく顔をあげ隣にいるゲンマさんを見上げると。 「お前は、もっとちゃんと笑えるハズだ。」 ・・・・な、んで。そんな事、今ここで言うんですか。 泣きそうになるのを必死に堪えて、はやっとの思いで小さく「今はちゃんと笑えません。」と言った。 そんな姿を見て、苦しそうに笑ったゲンマの顔はうつむくには見えていなかったのだが。 それから再び2人は歩き出し、しばらくたってから先ほどの事など気にも留めずに突拍子もなくゲンマは口を開いた。 「カカシさんから俺に鞍替えしてもいーんだぞ〜〜。」 「しません!・・・・っていうか、え??!!!ゲンマさん・・・なななな、なんで分かったんですか///??」 確かにあたしが誰かを好きなように見えるとは言ってたけど、なんでそれに気がついたってわかるの〜〜〜/// 慌てふためくに、なにをいまさら。と事も無げに「んなもん、お前見てりゃわかる。」とさらっとゲンマは言ってのけた。 「ま、お前の場合やっと自分の気持ちに気づいた矢先にこんな状態じゃーな。」 「はい・・・でも!大丈夫ですよ。」 そんな顔で言われてもなァ。 「カカシさんの看病に嫌気がさしたら、俺がやさーしく抱きとめてやるよ。」 「・・・ゲンマさんが言うとなんかやらしいですから。」 「はぁ?、俺はお前のお兄ちゃん的存在だぞ?お兄ちゃんがんなやらしーことすっかよ。」 本当かなー。と最後まで疑うに、ゲンマはニヤニヤとした顔で言う。 そんなゲンマとの束の間の帰り道はには、久々の楽しさを感じれる瞬間となった。 ありがとうございます、ゲンマさん。 ゲンマが、カカシを思う自分の気持ちを気遣って接してくれているのが痛いほどわかる。 カカシさんへの気持ちに気がついてから、なんだか誰かが誰かを想う気持ちに敏感になった気がする。 痛いけど、 確かに受け取る側が自分なことがイタイけど。 知らなかったままの時に戻りたいとは、思わない。 だって、今はありがとうと言えるから。 「今日はありがとうございました。」 扉の前に着くなり、はゲンマにお礼の言葉を述べた。 「いーってことよ。それにこないだ言ったろ?」 『俺は、好きな奴にはやっぱ幸せになって欲しいんだよ。例えその相手が俺以外の奴でもな。』 ゲンマに言われた言葉を思い出して、は少し照れるようにして笑って見せた。 「ちゃんと、・・・ちゃんと幸せになって笑えるようになるのはまだ時間がかかると思います。」 「あぁ。」 「でも!時間がかかっても、きっと幸せになってみせますから。」 しっかりとした瞳でそう告げるを見て、ゲンマは。 やっぱ、コイツのこーいうとこが好きなんだよな。と1人再確認していた。 ゲンマは最後にの頭をひと撫でし帰っていった。 が、きちんと前みたく無邪気に笑えるようにしばらくはそばで見守ろう、と心に固く決めて。 「あーあ、俺マジでこんなにイイ男なのになァ〜〜。こんなんじゃ新しい女も出来やしねェ。」 そう言いながらも、口元は笑っていた。 久々の、やっとの、連載更新です。 気合入りまくってるんですが、カカシ先生の発言がいっこもねぇ!!! ・・・すみません、後半に続きます。 |